大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所萩支部 昭和30年(ワ)51号 判決

原告

水津安一

被告

水津七郎

主文

被告は原告に対し金拾弐万円及之に対する昭和三十年八月二十五日から右完済に至る迄年五分の割合による金員を支払うべし。

原告その余の請求は之を棄却する。

訴訟費用は原被告の平分負とする。

事実

(省略)

理由

第三者の作成にかゝり当裁判所真正に成立したものと認める甲第一、二号証に証人小野定雄、平田忠良、水津福雄の各証言並原告本人訊問及検証の各結果を綜合すれば原告は昭和三十年四月三日午後六時三十分頃原告所有のダイハツ号一屯積自動三輪車の後部荷台に長男勝美(当六年)二男敏文(当五年)を乗せ自ら運転して山口県阿武郡阿武町大字奈古を出発し同町大字木与に向つて時速三十六粁位にて進行中同六時五十分頃山陰線木与駅南方約七百米の通称峠根と呼ぶ県道に差蒐つた時幅員約三、八米の該道路の進行方向に向つて左側道路端より約一、二米中央に寄つた箇所に高さ約三〇糎底面縦約三〇糎横二〇糎の石垣用割石一個が稜点を上に向け置いてあるのを発見したので原告は直ちに之を避けようとしてハンドルを右へ切つたがこの時四、三米位前方の右側道路端より〇、八米位道路に入つた箇所に更に一個前同様の割石が置いてあるのを発見したので原告は之を避けるため更にハンドルを左へ切ろうとしたところ前記第一の割石が左後車輪のブレーキ鉄線とドラムの間に挾まりブレーキが利かなくなつたため車体が急激に左へ転回し車首を殆んど前記奈古方面に向け急停車したこと右衝激により後部車上にいた二児は道路上に振落され長男勝美は頭部に縫合十針治療約二週間を要する割創を二男敏文は頭部に縫合一針を要する打撲傷を受け原告自身も前面ウインドウに撃突したゝめ治療約一ケ月を要する顔面打撲傷及左第七肋骨不全骨折を受け自動三輪車は前面ウインドウ、メーンフレーム等を大破するに至つたことを認むるに十分であると共に証人岩本久江、同田中煕槌、同大田義明等の証言並成立に争のない甲第七号証の一、二及乙第十一号証に検証の結果を綜合すれば被告は前同日午後一時頃から大字木与八九二番地浅原はる子方において友人数名と共に花見の酒宴を開き相当酩酊の上午後五時半から六時頃迄の間に単身浅原方を立出で徒歩にて帰途についたがその途中前記峠根の県道において該県道と東側石垣との間の小溝にあつた前記石垣用割石二個を抱え出し不法にも前記の如く県道上に据之置いてそのまゝ帰宅したものであることを認めることができ右認定に反する趣旨の被告人の供述は到底措信し難くその他右認定を覆すに足る証拠はない。

さすれば本件事故は被告の右不法行為に基因するものであるから被告は原告が右事故によつて蒙つた損害を賠償すべき義務があることは当然と言わなければならない。

この点につき被告は本件事故は原告が自動車運転者として当然の注意義務を怠り進行途上にある石塊を早期に発見し之を避けて通過すべきであつたのに不注意にもその措置に出てなかつたのは原告の過失であるから被告に責任はない旨主張するを以て案ずるのに原告本人訊問及検証の各結果によれば本件事故現場たる県道は幅員約三、八米延長七百米位の直線道路にして南北両方面からの見通して極めて良好で路面亦概ね平坦にして勾配殆んどなき場所であつて時刻もまだ前照灯を必要とせざる程度の明るさであつたこと及事故直前原告は時速三十六粁位にて事故現場に差蒐り前記第一の割石より六米位手前にて同割石を発見したが之を右へ避けて進行しようとして速度はそのまゝにハンドルを右へ切つたところ更にその前方四、三米位の箇所に第二の割石があつたゝめ之を避けようとしてハンドルを左へ切りブレーキをかけようとしたが第一の割石が左後車輪のドラムとブレーキ鉄線の間に挾まつた衝撃のため車体が左へ急転回して停車した事実を認めることができ該事実によれば原告において第一の割石をも少く早く発見し発見と同時に速度を減じ且之を右へ避けるに当つて目測を誤らなかつたならば右割石が後車輪に挾まるようなことはなく従つて第二の割石があつても之を左へ避けて本件事故の発生を未然に防ぐことが必ずしも不可能ではなかつたことを推認できるので原告にも右程度の過失があつたと言わなければならないけれども原告の右過失行為が被告の本件割石を路上に持出したる不法行為と結果との困果関係を中断するものでないことは原告の右過失が被告の右不法行為に基因するものである一事に徴し明白であるから被告の前記主張はその理由がないものと言わなければならない。因つて進んで本件事故により原告が蒙つた損害の数額につき案ずるのに前記甲第一、二号証第三者の作成にかゝり当裁判所真正に成立したものと認める同第三、四号証証人槌田義一の証言により成立を認められる同第五号証に証人小野定雄、水津鶴江、槌田義一の各証言及原告本人訊問の結果を綜合すれば前記事故による原告及その長男勝美の負傷の医療費として金二千七百五円、薬代及栄養品代として金壱千五百円、原告の十五日間休業による損失金九千円、代用車借賃千円、見舞返礼及全快祝費として金七千円、破損車運搬費四千四百円、修理依頼のための往復費及酒代千五百円破損修理費拾万壱千五拾弐円、計金拾弐万八千百五拾弐円の損害を生じたことが認められ又成立に争のない甲第六号証及原被告本人訊問の結果明なる被告方は家族七人資産としては被告名義の山林一反、家屋五十二坪五合八勺、固定資産評価額合計四拾五万九千四百九拾七円、被告の職業は大工職にして年間の所得税約拾弐万円、原告方は家族八人資産としては山林七畝位、原告の職業は大工職にして年間の税額拾参万円位、破損した自動三輪車は昭和二十九年十二月末頃代金四拾九万円にて購入したもので事故当時は殆んど新車に近きものであつたこと等を綜合すれば原告が本件事故により蒙つた肉体的精神的苦痛に対する慰藉料は金五万円を以て相当と認むべきであるが前認定の如く原告にも自動車運転者として過失があつたのであるから本件損害賠償額を定むるについては民法第七百二十二条第二項によつて之を斟酌し結局被告が原告に賠償すべき金額は金拾弐万円を以て相当と認め同金額の限度において原告の請求を認容しその余は失当と認めて之を棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 林馨)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例